お寺拝見 スペシャルインタビューVOL21(そうぎゃりあんだえうったらそう)2022年2月発行号

手つかずの自然に囲まれた歴史ある祈祷寺 

廃寺から再び人が集う場所に

高野山真言宗 三石山不動寺(和歌山県橋本市)

JR和歌山線紀伊山田駅から北へ車で10分。柿畑を抜け山道を登ったところに三石山不動寺はあります。弘法大師修行の地で「三石山不動瀧」は紀の国名水百選の1つ。ご祈祷を受ける人、お瀧に参る人、お水取りに来る人たちを温かく迎えるのは住職の佐藤妙泉さん。一時は廃寺になったお寺を復興させ再び血の通う場所にした2年の歩みを伺いました。

お瀧をご神体とする神仏習合の寺

三石山不動寺の起源は古く延暦13(794)年。弘法大師が21歳の時、この地で修行し、手水を求めて竹杖を立てたところ、水が湧いたという伝承が残されています。その時に出来た「不動瀧」をご神体とする拝殿が建てられ、霊験あらたかな神仏習合の祈祷場として脈々と信仰されてきました。

  • そんな歴史あるお寺が2019年に一時廃寺に。どんな経緯があったのでしょうか。

前住職は環境整備がお得意で、お瀧の水を境内に引っ張ったのも前住職です。しかし後継者がなく2019年2月に廃寺に。前住職とお会いしたのは同年の11月で、私を一眼見て「ここで護摩供したらどうや」と言ってくださいまして…。僧侶になったばかりでしたが、不思議な力に突き動かされるようでした。

住職就任2年を振り返って~少しずつ人が集まるように

  • 出版業界とNPO法人活動を経て

もともとは東京暮らしで全く別の仕事をしていた妙泉さん。

まず私の経歴をお話ししますと、フリーのライターや出版関係の仕事を20年、NPO法人の仕事を5年程していました。それらを全て辞して2016年に高野町に移住したのは10年越しの夢であった高野山大学大学院で密教学を学ぶためです。

高野町では学業とともに、高野山ブランド創出事業を担当しました。前職のライタースキルやNPOでの地域活動の経験が、今も役に立っていますね。

2019年に真言宗僧侶となり、2020年4月から不動寺での法務が始まりました。はじめは大変不安でしたが、弘法大師のお導きと信じて取り組んでいました。色々な人が応援してくださって、何とかやって来れた感じです。当初はこんなに信徒さんが来てくれるとは想像もできなかったですね。

  • 毎月催しを行い、人を迎える

廃寺だったお寺に新米僧侶が1人きり。具体的にどんな毎日だったのでしょうか。

4月中は住職が来たと噂で聞いて来る人が増え、忙しくしていたのですが、5月に入ったら人が減って…あれ??となって(笑)。そこでお寺を知っていただくためにも、毎月イベントを催しました。

6月は不動寺体験ご奉仕会として、境内の清掃などをしてもらった後で座談会を開いたり、7月の「お瀧スペシャル」では地元の女性たちを中心に音楽や舞を奉納してもらいました。

紅葉の季節には、公園代わりに訪れる人の対応や、紅葉をインスタライブで配信。お正月は他府県からも初詣に来られるので、香りの護符や新春海運みくじなどの頒布品を配ってお迎えしました。

  • 83年前の列車事故の慰霊祭を行う

行事予定はお寺のホワイトボードに書くほかフェイスブック、インスタグラムなどのSNSでも発信。

法務のメインはご祈祷とご供養で、予約制です。毎月28日のお不動様のご縁日には、前住職の代から来られる信徒さんが6組あり、午前中はご祈祷、午後から護摩供を行っていたのですが、信徒さんが増えた2年目からは、護摩供は別の日にしています。

2年目の2021年、ますます祈祷寺としての役割を果たす機会が増えました。

5月3日の山ノ神の日に慰霊祭を行いました。今から83年前(1938年)列車事故で亡くなられた旧橋本小学校の児童27人と先生3人のご供養です。初めての慰霊祭で、橋本市の教育長も参列されました。

先代の意思を受け継いで・夢は護摩堂の建立

  • 遠隔祈祷でお礼参りに来られる方も

金剛生駒紀泉国定公園内の、手つかずの自然に恵まれた、霊験あらたかなお瀧を拝んでご祈祷する。それが不動寺の最も大切な柱です。

先日、切られた樟の木のご供養の依頼がありました。来られたのは3人で、ご祈祷の間、泣いていました。その後、手作りのお斎を囲んで。切られた木を悲しむ心を持つ、そんな人が集まるお寺なんやなあと思っています。

遠方の方のために遠隔祈祷も行っています。電話で詳しく状態をお聞きしてご祈祷し、祈祷札を送ります。先日もすぐに効果があったとのことで、実際にご来寺され、ご家族の健康祈願もさせていただきました。

1年目はもっとPRしなければと焦りましたが、今は宣伝しなくても来る人は来ると思えるようになりましたね。初心を忘れないようにと、常に念じています。

  • まだまだ課題もあります。

僧侶がもう1人いたらもっと色々出来るのにと思います。小さな本堂ですが、お不動さんが4体いらっしゃるので1人では足りないんです。

ご本尊、信徒様、行者(住職)が自然に一つの大きな輪の中に入り込んでいけば、いい拝みができ、広く功徳が行き渡ります。そんな拝みが出来たときはとても嬉しいですね。

目に見える課題では環境整備ですね。鏡池周辺の美化や、先代からの夢である護摩堂の建立です。

  • 様々な人を迎える不動寺。その際、住職として大切にしていることがあります。

お寺に来られた方が帰られる時、お見送りするようにしています。お水取りの人も皆。ネットに「尼僧さんが見送ってくれたのが嬉しかった」と書かれたのを読んだからなのですが(笑)、人付き合いが希薄になっている今、ここで少しでもそんな感覚を取り戻してもらえたら…と思っています。

コラム

「横笛の会」誰もが気軽に仏教文化を楽しめる体験講座を主宰(開催場所:高野町内の施設)

わたしが高野山ブランド創出事業に関わっていた時の活動を発展させた、inゆるやかな集まりです。会の名前は平家物語に出てくる横笛法尼から名付けました。

毎月20日に高野町内の施設で例会を開くほか、様々な体験講座を開いています。人気は香とアロマのお守り作り。香りのお守りは7つの香木をブレンド、アロマはアロマオイルを使います。私自身、アロマが好きでアドバイザーの資格も持ってるんですよ。柔らかいテーマから仏教に興味をもってもらうのが目的で観光の方にも喜ばれています。参加は予約制です。(妙泉)

【お話しくださった方】佐藤妙泉さん

1971年生、兵庫県出身。出版業、NPO代表理事を経て、2016年に高野町に移住し高野山ブランド創出事業を担当する傍ら、高野山大学大学院で密教学を専攻。2020年4月に三石山・不動寺住職に就任、復興に取り組む。歌が好きで高野町の歌謡ショーにも出演。ポップスが好きだが最近はジャズにも開眼。

  • information

高野山真言宗 三石山不動寺

●山号 三石山

●宗派 高野山真言宗

所在地 〒648-0081 和歌山県橋本市山田812

TEL 090-8110-3858

(取材 2021年10月27日 加藤わ呼)

寺名などは取材当時2021年のもの。

高野山真言宗三石山不動寺は令和5年7月28日に宗教法人三石不動尊(高野山真言宗)として登記されました。